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名古屋地方裁判所 昭和46年(ワ)2445号 判決

原告

岩本強征

代理人

都築真

被告

中川清

主文

本件につき当裁判所が昭和四六年九月二八日に言渡した手形判決を認可する。

異議申立後の訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、原告訴訟代理人は「被告は原告に対し金五〇万円及びこれに対する昭和四六年四月一五日から支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする」との判決並びに仮執行宣言を求め、被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

二、原告訴訟代理人は請求の原因として次のとおり述べた。

(一)  訴外榊原第吉は被告に宛昭和四六年三月一五日額面金五〇万円、支払期日同年四月一五日、支払地、振出地共半田市、支払場所株式会社中央相互銀行半田支店なる約束手形(以下本件手形という)を振出した。

(二)  被告は訴外小山悼生に、更に同人は訴外古田清彦に、いずれも拒絶証書作成を免除して裏書した。

(三)  原告は同年六月一四日に右訴外古田清彦から本件手形の裏書を受けた。

(四)  よつて、原告は被告に対し、本件手形金五〇万円及びこれに対する支払期日である同年一五日から支払済に至るまで手形法所定の年六分の割合による利息金の支払を求める。

三、被告は答弁及び抗弁として次のとおり述べた。

(一)  請求の原因(一)の事実中「被告に宛」とある部分は否認し、その余の事実は認める。

(二)  同(二)の事実中被告の裏書の点は認めるが、その余の事実は否認する。

(三)  同(三)の事実は不知。

(四)  同(四)の事実は争う。

(五)  本件手形は受取人欄が白地のままで呈示されたものであるから、適法な呈示がなされたということはできない。したがつて、被告に対する本訴請求は失当である。

四、原告訴訟代理人は「被告の抗弁は否認する」と述べた。

五、立証〈略〉

理由

一、請求の原因(一)の事実中、本件手形の受取人が被告である点をのぞき、その余の事実は当事者間に争いがない。

そして受取人欄の記載をのぞきその余の部分の成立につき争いのない甲第一号証(本件手形)によると、右の受取人欄には、被告の氏名が記載されていることが認められる。したがつて、仮に右の受取人欄が白地であつたとしても、本件手形が振出された後、適法に補充されたものであると推認するのが相当である。

次に請求原因(二)の事実中、被告が本件手形を拒絶証書作成を免除して、訴外小山悼生に裏書したことは当事者間に争いがなく、右甲第一号証及び弁論の全趣旨によると原告は裏書の連続した本件手形の所持人であることが認められる。

二、しかして本件は手形所持人の裏書人に対する遡求権の行使にもとづく請求である。

そして手形所持人である原告が、裏書人である被告に対して有効に遡求するためには、所持人(又はその前者)が、支払呈示期間内に支払のために手形を呈示し、その支払が拒絶されたこと、拒絶証書作成期間内に拒絶証書の作成がなされたことを要することは手形法四三条、四四条、七七条によつて明らかである。

ところで本件のように拒絶証書の作成が免除されている場合には、同法四六条二項後段は「期間ノ不遵守ハ所持人ニ対シ之ヲ援用スル者ニ於テ其ノ証明ヲ為スコトヲ要ス」旨の規定している。本件手形判決は、本件のような遡求権行使の場合において、呈示の事実が請求原因事実であると解していることは明らかである。

しかし同条項によれば、拒絶証書の作成を免除のうえ裏書した場合には、期間の不遵守すなわち支払呈示期間内に支払のための呈示がなされなかつたという事実は、遡求義務者において証明する責任がある旨を規定しているのであるから本件のように拒絶証書作成を免除して裏書した場合においては同条項により、期間内に呈示がなされたという事実は法律上推定され、手形所持人は、遡求義務が拒絶証書作成を免除して手形を裏書したという事実を主張立証すれば、不呈示の事実は遡求義務者において主張立証しなければならないことになると解すべきである。

なお呈示の事実についての主張責任も原告が負わないとの点について付言する。右の推定規定により期間内の呈示の事実が推定されるのであるから、右の事実を手形所持人が主張しなければならないとすれば、右の推定をくつがえすために、遡求義務者において不呈示という反対事実について主張しなければならないことになるわけである。そうすると、同一事実の存否について双方が主張責任を負うという無用の結果を認めることになるから、呈示の事実については、手形所持人は主張責任も負わないと解するのが相当である。

三、そこで被告の不呈示の抗弁について審案する。

前記甲第一号証(符箋を含む)によると、本件手形は支払期日に支払場所に呈示され、支払を拒絶されたことが認められる。しかし右の甲第一号証の写は受取人欄が白地の状態で、機械複写されたものに右受取人欄に被告の氏名が活字で記載されたものであること、甲第一号証の原本と右の写の受取人欄の被告の氏名の記載を対比すると明白にずれていることが認められ、更に甲第一号証の写は本訴提起のために作成されたものであることが明らかであることに照すと本件手形は受取人欄が白地のままで呈示されたものと推認するのが相当である。

したがつて本件手形は支払期日に支払場所において適法な呈示がなされなかつたものという他はないから、被告のこの点に関する主張は理由がある。

四、してみれば原告の本訴請求を棄却した本件手形判決は結論において相当であるから認可するべく、民事訴訟法四五七条、四五八条、八九条を適用して主文のとおり判決する。 (高橋爽一郎)

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